• 2025年9月24日

【脂質異常症を医師が解説】コレステロール・中性脂肪が高い方へ。

動脈硬化の仕組みから、あなたに合った治療目標、遺伝との関係まで徹底解説

ブログをご覧いただきありがとうございます。
きなが内科・内視鏡クリニック院長の木長健です。

「健康診断の結果を見て、『悪玉コレステロール(LDL)が高いですね』『中性脂肪も少し高めです』と指摘されて、不安に思っていませんか?」

「特に自覚症状もないし、一体何から手をつければ良いのだろう…」

そんな疑問や不安を抱えている方のために、脂質異常症の基本から、放置する本当の怖さ、そして今日からできる対策について、お伝えします。


セクション1:コレステロールの「善玉」と「悪玉」、そして「中性脂肪」の役割

まず知っていただきたいのは、コレステロールや中性脂肪は本来、私たちの体を維持するために不可欠な物質だということです。問題なのは、その「バランス」です。それぞれの役割を、体の中の輸送システムに例えてみましょう。

悪玉(LDL)コレステロール

肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞に運ぶ「配達トラック」です。細胞膜やホルモンの材料を届ける重要な役割を担っています。

善玉(HDL)コレステロール

全身で余ってしまったコレステロールを回収して肝臓に戻す「回収トラック」です。血管のお掃除役とも言えます。

中性脂肪

体を動かすためのエネルギー源です。しかし、増えすぎると「交通量を増やし、悪玉トラックを小型化させて暴走させる要因」となり、善玉トラックの働きを邪魔します。

つまり、配達トラック(悪玉)が多すぎたり、回収トラック(善玉)が少なすぎたり、交通量(中性脂肪)が過剰になったりすると、道路(血管)にコレステロールが溢れてしまい、事故(動脈硬化)の原因となるのです。


セクション2:脂質異常症はなぜ危険?動脈硬化から心筋梗塞・脳梗塞へ至る仕組み

脂質異常症は、自覚症状がないまま進行する「動脈硬化の最大の危険因子」です。では、どのようにして命に関わる病気に繋がるのでしょうか。

ステップ1:血管の壁にゴミ(プラーク)が溜まる

血液中に溢れた悪玉コレステロールが、血管の壁の内側に入り込み、「プラーク」と呼ばれるお粥のようなドロドロの塊を作って、血管を狭くしていきます。

ステップ2:プラークが破れて、かさぶた(血栓)ができる

このプラークは非常に不安定で、何かのきっかけで破れることがあります。すると、傷を治そうとして血液の成分(血小板)が集まり、瞬時に「血栓」というかさぶたが作られます。

ステップ3:血栓が血管を完全に塞ぎ、心筋梗塞・脳梗塞へ

この血栓が血管を完全に塞いでしまうと、その先に血液が流れなくなり、細胞が壊死してしまいます。これが心臓の血管で起これば心筋梗塞、脳の血管で起これば脳梗塞となるのです。


セクション3:「なぜ私の数値が高いの?」原因を徹底解説

LDLコレステロールが高くなる原因は、一つではありません。

主な原因は生活習慣

食生活

動物性脂肪(肉の脂身、バター、生クリーム等)やコレステロールを多く含む食品(鶏卵、魚卵等)の摂りすぎ、カロリー過多。

その他の生活習慣

運動不足、喫煙(善玉を減らし悪玉を増やす)、過度の飲酒(中性脂肪を増やす)、ストレス。


よくあるご質問

Q.「痩せているのに、なぜコレステロールが高いの?」

A. 痩せていても、お肉の脂身、バターや生クリームを使った洋菓子、インスタントラーメンなどを好んで食べる習慣があると、LDLコレステロールは高くなります。また、遺伝的な要因や、極端な糖質制限ダイエットによって数値が上昇することもあります。「痩せているから安心」は禁物です。

Q.「女性は閉経後に注意が必要って本当?」

A. はい。女性ホルモン(エストロゲン)には、LDLコレステロールの増加を抑える働きがあります。そのため、閉経を迎えてエストロゲンの分泌が減少すると、コレステロール値が上昇しやすくなります。

見逃してはならない遺伝性の病気「家族性高コレステロール血症(FH)」

「生活習慣には気をつけているのに、昔からLDLコレステロールの値が異常に高い…」

そんな方は、「家族性高コレステロール血症(FH)」という遺伝性の病気の可能性があります。500人に1人以上と、決して稀な病気ではありません。

FHは、肝臓がLDLコレステロールをうまく処理できないため、若い頃から動脈硬化が急速に進行し、20代や30代といった若さで心筋梗塞を起こすこともある、非常に危険な病気です。

【FHを疑うサイン】

  • 若い頃からLDLコレステロール値が180mg/dL以上
  • 家族や親戚に、コレステロールが高い人や、若くして心筋梗塞・狭心症になった人がいる
  • アキレス腱が太い、まぶたや肘、膝などに黄色いしこり(黄色腫)がある

FHは早期発見・早期治療が何よりも重要です。心当たりのある方は、ぜひ一度ご相談ください。


セクション4:「治療目標」は一人ひとり違います

「では、数値をどこまで下げれば良いのでしょうか?」実は、その目標値はすべての人で同じではありません。

脂質異常症の治療は、マラソンの目標タイム設定と似ています。年齢や性別、喫煙の有無、そして高血圧や糖尿病といった他の病気を合併しているかによって、将来、心筋梗塞などを起こすリスクは大きく異なります。

当院では、患者様一人ひとりのリスクを総合的に評価し、あなただけの「治療目標値」を設定します。あなたの目標値を、医師と一緒に確認し、共有することが治療の第一歩です。


セクション5:治療について 〜主役はあなた自身です〜

治療の基本は、あくまで患者様ご自身の生活習慣の改善です。

  • 食事のポイント: 動物性脂肪を控え、青魚や大豆製品、そして野菜・きのこ・海藻類などの食物繊維を積極的に摂りましょう。
  • 運動のポイント: ウォーキングや水泳などの有酸素運動を、まずは無理のない範囲で習慣にしましょう。
  • 禁煙の重要性: 喫煙は動脈硬化を強力に促進します。禁煙を実行しましょう。

生活習慣を改善しても目標値に届かない場合や、FHの方、心筋梗塞などのリスクが非常に高い方には、お薬による治療を積極的に行います。お薬は、あなたの生活改善の努力を後押しするための強力なサポーターです。

当院では、あなたのリスクを総合的に評価して最適な治療目標を設定し、FHが疑われる場合の鑑別診断も行います。私たちと一緒に、未来の健康を守っていきましょう。

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