- 2025年9月24日
【医師が解説】血圧が高めと言われた方へ。症状がないからと放置は危険!
「サイレントキラー」高血圧の本当の怖さと対策

「健康診断で『血圧が高めですね』と指摘されたけれど、特に頭痛やめまいといった症状もないし…」
そう思って、結果の用紙をそのままにしていませんか?
自覚症状がほとんどないため、つい後回しにされがちな高血圧。しかし、その背後では、あなたの血管や心臓に静かに、しかし着実に負担がかかっています。この症状なき進行こそが、高血圧が「サイレントキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれる所以(ゆえん)です。
実際、日本には高血圧の方が約4,300万人いると推定されていますが、そのうちの約6割の方が適切な治療を受けていないというデータもあります。
今回は、ご自身の健康な未来を守るために知っておきたい高血圧の本当の怖さと、今日からできる具体的な対策、そしてなぜ「ご家庭での血圧測定」が何よりも重要なのかについてお伝えします。
そもそも「血圧」とは?〜心臓というポンプと血管というホース〜

まず、血圧の基本を理解しましょう。私たちの体では、心臓がポンプのように収縮と拡張を繰り返し、血液を全身の血管(ホース)に送り出しています。この時、血液が血管の壁を押す力が「血圧」です。
- 収縮期血圧(上の血圧): 心臓が「ギュッ」と収縮して、勢いよく血液を送り出した瞬間の、最も高い圧力です。
- 拡張期血圧(下の血圧): 心臓が「フワッ」と拡張して、血液をため込んでいる瞬間の、最も低い圧力です。
あなたの血圧はどのレベル?治療の鍵は「家庭血圧」にあり
高血圧の診断や治療では、病院で測る「診察室血圧」だけでなく、ご自宅でリラックスして測る「家庭血圧」が非常に重要視されます。なぜなら、家庭血圧の方が長期的な血管への負担をより正確に反映すると考えられているからです。
分類 | 診察室血圧 (mmHg) | 家庭血圧 (mmHg) |
正常血圧 | 120未満 かつ 80未満 | 115未満 かつ 75未満 |
高値血圧 | 130-139 / 80-89 | 125-134 / 75-84 |
高血圧 | 140以上 / 90以上 | 135以上 / 85以上 |
高血圧と診断されるのは、ご家庭での血圧が135/85mmHg以上の場合です。また、病院では正常なのに家で測ると高い「仮面高血圧」(特に早朝に高い場合は危険)を発見するためにも、ご家庭での測定が欠かせません。
【家庭血圧の正しい測り方】
- タイミング: 朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前)と夜(就寝前)の2回
- 方法: 椅子に座って1〜2分安静にした後、2回測定し、その平均値を記録します。
- 記録: ぜひ血圧手帳などに記録し、受診時に医師にお見せください。それが最適な治療への何よりの近道となります。
なぜ高血圧は危険なのか?〜静かに進む動脈硬化〜

高い圧力に常にさらされた血管は、次第に弾力性を失い、厚く、硬く、もろくなっていきます。これが「動脈硬化」です。動脈硬化が進むと、血管が狭くなったり、詰まったり、破れやすくなったりして、ある日突然、命に関わる病気を引き起こします。
- 脳: 脳梗塞、脳出血
- 心臓: 狭心症、心筋梗塞、心不全
- 腎臓: 腎不全(最終的に透析が必要になることも)
脳や心臓の病気による死亡の約半分は、120/80mmHgを超える血圧が原因と推定されており、いかに早期からの血圧管理が重要かお分かりいただけると思います。
高血圧の原因は?【特に女性は更年期以降要注意】

高血圧の約9割は、生活習慣が深く関わる「本態性高血圧」です。特に日本人は「塩分の過剰摂取」と「肥満」が大きな原因となっています。
【特にご注意いただきたい方】
- 働き盛りの男性の方へ: ストレスや飲酒、喫煙など、血圧を上げる要因に囲まれていませんか?まだ若いからと過信せず、早期からのケアが将来の健康を守ります。
- 更年期を迎える、また迎えた女性の方へ: 女性ホルモン(エストロゲン)には血管のしなやかさを保つ働きがありますが、更年期以降にその分泌が減少すると、血圧が急上昇することがあります。「今まで大丈夫だったから」と安心せず、この機会に血圧を測る習慣をつけましょう。
【最重要】高血圧対策は「減塩」から!無理なく美味しく続ける4つのステップ

高血圧治療の目標値は年齢や合併症の有無で異なりますが、まず取り組むべきは生活習慣の改善、特に「減塩」です。
ステップ1:まずは「目標」と「現状」を知る
日本高血圧学会が推奨する1日の塩分摂取量の目標は「6g未満」です。しかし、日本人の平均摂取量は男性で約11g、女性で約9g。まずは「今よりマイナス3g」を目標に始めましょう。
ステップ2:減塩の基本アクション「減らす」「避ける」
- 麺類の汁は残す: ラーメンやうどんの汁を半分残すだけで、2〜3gの減塩に。
- 塩分の多い食品を控える: 漬物、佃煮、梅干し、ハムやソーセージといった加工食品は食べる頻度や量を減らしましょう。
- 食卓に調味料を置かない: 「とりあえず醤油」をやめて、味見をしてから使いましょう。
ステップ3:減塩を「美味しく」する3つの工夫
- 酸味や香りを「足す」: レモンやお酢の「酸味」、コショウや唐辛子の「辛味」、シソや生姜、ハーブなどの「香り」は、塩分が少なくても味の輪郭をはっきりさせます。
- 出汁の「うま味」を効かせる: かつお節や昆布の「出汁」をしっかり効かせると、素材の味が引き立ち、薄味でも深い味わいになります。
- 旬の食材の「味」を活かす: 旬の野菜や魚は、それ自体の味が濃く、風味も豊かです。
ステップ4:体の外へ「出す」ことも意識する
塩分(ナトリウム)を体の外へ排出するのを助けてくれるのが「カリウム」です。ほうれん草などの葉物野菜、アボカド、バナナ、海藻類に多く含まれています。
【クリニックからの重要なお知らせ】

ただし、腎臓の機能が低下している方(慢性腎臓病など)は、カリウムの摂取制限が必要な場合があります。自己判断で摂取せず、必ず事前に医師へご相談ください。
一人で悩まず、専門家と一緒に未来の健康を守りましょう

高血圧の管理は、時に一人では難しいものです。
「自分の場合はどのくらいの目標を目指せばいいの?」
「生活習慣の改善って、具体的に何をすれば?」
「薬を飲んでもなかなか血圧が下がらない…」
そんな疑問や不安があれば、ぜひ一度当クリニックにご相談ください。
当院では、正しい血圧の測定指導から、隠れた原因(二次性高血圧)の検索、そして管理栄養士と連携した食事指導、必要に応じたお薬の治療まで、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適な治療をご提案します。