- 2025年2月5日
過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群(IBS=Irritable Bowel Syndrome)は腸管の運動や感覚に異常をきたし、生活の質を著しく低下させる慢性疾患です。現在の医学では根本的な治療法は確立されていないものの、適切な管理によって症状を軽減できます。
IBSの種類と特徴
IBSは、排便のパターンや便の性状に基づき、以下のタイプに分類されます。
便秘型(IBS-C) | 主に硬い便、便秘が特徴。排便の頻度が減り、排便時の痛みや不快感を伴います。硬い便の排泄に時間がかかるため、腸への圧力が増加し、腹部膨満感が強くなる傾向があります。 |
下痢型(IBS-D) | 突然の便意や水様便が頻繁に発生します。排便後に不完全感が残る場合が多いです。特定の食事やストレスが引き金となり、突然の腹痛や便意が起こることがあります。 |
混合型(IBS-M) | 便秘と下痢が交互に現れる。症状が不規則で、患者の生活の質を著しく低下させます。 |
分類不能型(IBS-U) | 明確なパターンがないものの、腹痛や不快感が主症状として挙げられます。 |
過敏性腸症候群の原因
1.腸脳相関の乱れ

腸と脳は相互に情報を伝達する「腸脳相関」によって密接に連携しています。このネットワークの異常が、IBSの発症に関与しています。
2.腸管の感覚過敏

腸内の通常の活動が過敏に感じられ、痛みや不快感として認識されることがあります。
3.腸内細菌の異常

腸内フローラの乱れや、腸内細菌の過剰増殖(SIBO)がIBSの症状を悪化させることがあります。
4.ストレス

心理的ストレスは腸管の運動と分泌に影響を与え、症状を悪化させます。
5.ホルモンの影響

女性ホルモンの変動が、月経周期に伴うIBS症状の悪化を引き起こすことがあります。
過敏性腸症候群の主な症状
下痢と便秘のメカニズム

腸管運動が過剰に活発になることで、腸内の内容物が急速に移動し、水分吸収が不十分になります。その結果、水様便や頻回の排便が発生します。また、腸管運動が遅くなると、水分が過剰に吸収され、便が硬くなります。さらに、腸内に便が長く滞在することでガスが溜まり、腹部膨満感や不快感を引き起こします。
腹痛や不快感の原因
腸の筋肉が過剰に収縮することで、急激な腹痛が生じます。特に食事後に痛みが悪化する傾向があります。腸内で発酵が起こり、ガスが蓄積することで膨満感や痛みが発生します。高FODMAP食品(発酵性の糖類)が原因となる場合があります。
過敏性腸症候群の重症度チェック
以下のような症状が頻繁に現れる場合は、重度のIBSが疑われます。
□腹痛が1日に何度も起こる。
□排便パターンが日によって大きく変動する。
□便意を我慢できない、または排便後も不快感が残る。
□日常生活や仕事に支障をきたす。
過敏性腸症候群の診断
診断テストの種類
- ローマIV基準:IBSの診断には、少なくとも3か月間、週1回以上の腹痛があり、排便や便性状の変化と関連していることを確認します。
- 除外診断:炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)、セリアック病、大腸がんなどを除外するための検査が必要です。
必要な検査種類と内容
1.大腸カメラ(下部内視鏡検査)

腸粘膜を直接観察し、炎症や腫瘍を除外します。異常がない場合、IBSが疑われます。
2.便潜血検査

血便がある場合、腫瘍や炎症性疾患の可能性を評価します。
3.呼気試験

腸内細菌の異常増殖(SIBO)の有無を確認します。特にガスが多い場合に実施されます。
過敏性腸症候群(IBS)の治療法
薬物療法の効果と種類
- ポリカルボフィルカルシウム
ポリカルボフィルカルシウムは、腸管内で水分を吸収して膨隆、ゲル化することで便の水分バランスをコントロールします。これにより、便秘型(IBS-C)では便を柔らかくし、下痢型(IBS-D)では便を適度に固める作用があり、便性を安定させる効果があります。また、腸の過剰な動きを抑え、腹痛や膨満感の軽減にも寄与します。 - 抗けいれん薬
腸管の収縮を抑えることで、痛みを軽減します。特に食事後に発生する腹痛や、突然の便意に伴う不快感を和らげる効果があります。 - プロバイオティクス
腸内細菌のバランスを整え、症状を緩和します。特に、ビフィズス菌や乳酸菌が有効とされ、腸内フローラの乱れを改善することで便通や腹痛の軽減に貢献します。 - 腸運動抑制薬(止痢薬)
ロペラミド塩酸塩(ロペミン)とラモセトロン塩酸塩(イリボー)は、腸管蠕動を抑制することで下痢を改善する薬剤です。ロペラミド塩酸塩(ロペミン)は、腸の動きを抑えて水分吸収を促進し、急な便意や頻回の排便を抑制します。下痢型(IBS-D)で、特に外出時の便意コントロールに役立ちます。ラモセトロン塩酸塩(イリボー)は、セロトニン受容体拮抗薬で、腸の過敏な収縮を抑制し、腹痛や下痢の頻度を減少させる効果があります。特に男性のIBS-Dに有効とされています。 - 便秘治療薬
ルビプロストンやリナクロチドは、腸管に水分を引き込み、便を柔らかくすることで便秘型(IBS-C)の症状を改善します。特に、排便回数の増加や腹部膨満感の緩和に効果があります。 - 心理的治療薬
IBSの発症には腸脳相関の乱れが関与しており、抗うつ薬や抗不安薬が自律神経のバランスを整えることで、症状を改善する場合があります。特に、ストレスや不安が症状を悪化させる場合に有効です。
食事療法の重要性
低FODMAP食:
発酵性糖類(FODMAP)を制限することで腸内ガスを減少させます。特にガスや膨満感が強い場合に有効です。
高FODMAP食品の例:玉ねぎ、ニンニク、リンゴ、牛乳。 低FODMAP食品の例:バナナ、ニンジン、乳糖フリー乳製品。 |
脂肪分の制限:
高脂肪食品は腸管運動を乱すため、症状を悪化させます。脂肪分を抑えた食事が推奨されます。
オイルやペパーミントの使用:
ペパーミントオイルは腸管の筋肉をリラックスさせ、腹痛やガスを軽減します。腸溶性カプセルの形で摂取すると効果的です。
過敏性腸症候群と日常生活
ストレスが腸に与える影響

過敏性腸症候群(IBS)の発症や悪化にはストレスが大きく関与しています。ストレスは自律神経のバランスを乱し、腸管運動を不規則にするほか、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させ、腸内環境を悪化させることが知られています。
生活習慣の見直しが症状改善に効果的


IBSの症状を管理するには、規則正しい生活習慣が欠かせません。食事は決まった時間に摂取し、消化に優しい食品を選ぶことが重要です。特に、不溶性食物繊維を控え、可溶性食物繊維を多く含む食品を摂ることで腸への負担を軽減できます。また、カフェインやアルコールなど腸を刺激する飲食物の摂取を控えることも症状の緩和につながります。
メンタルケアと軽い運動の重要性

IBSの症状緩和には、心理的ストレスへの対応が効果的です。認知行動療法(CBT)やマインドフルネス瞑想は、腸脳相関を改善する科学的根拠があり、症状を軽減します。また、ウォーキングやヨガなどの軽い運動は腸の動きを促進し、ストレス緩和にも役立ちます。ただし、激しい運動は逆に症状を悪化させる可能性があるため、適度な強度を心掛けることが大切です。