- 2025年1月23日
バレット食道
バレット食道とは
バレット食道とはバレット食道は、胃酸や胆汁の逆流による長期的な刺激で、食道下部の正常な扁平上皮が円柱上皮に置き換わる病態です。この変化は特に食道腺がんのリスクを高める前がん病変として知られています。多くの場合、慢性的な胃酸逆流が続く逆流性食道炎の重症型として発展し、早期の診断と治療が患者の予後に大きく影響を与えるため、注意が必要です。
バレット食道のリスクと合併症
バレット食道の最大のリスクは、食道腺がんへの進行です。患者の約0.5~1%が毎年腺がんを発症する可能性があるとされ、胃酸逆流の頻度が高いほどそのリスクが増加します。また、慢性的な炎症が原因で以下の合併症が発生することがあります。
- 食道狭窄:炎症が続くことで粘膜が瘢痕化し食道が狭くなり、飲み込みが困難になります。
- 潰瘍:胃酸が粘膜を侵食し、痛みを伴う潰瘍が形成されることがあります。
- 出血:粘膜の炎症により血管が損傷し慢性的な出血や貧血の原因となることがあります。
バレット食道の原因
バレット食道の主な原因は、慢性的な胃酸逆流です。逆流性食道炎が長期間にわたり進行すると、粘膜がダメージを受けて変性します。また、以下の要因がリスクを高めます。
- LES(食道下部括約筋)の機能不全:括約筋が緩みやすい体質や肥満、妊娠、飲酒・喫煙の影響で逆流が起こりやすくなります。
- 生活習慣:高脂肪食や夜遅い食事、ストレスは胃酸分泌を増加させる要因となり、粘膜への負担を大きくします。
- その他:遺伝的要素や食道の解剖学的異常も関与することがあります。
逆流性食道炎との関係

逆流性食道炎は、バレット食道の発症に深く関係しています。胃酸や胆汁の逆流が続くことで、逆流性食道炎が慢性化し、粘膜の変性が進むとバレット食道に移行します。逆流性食道炎の早期治療や胃酸逆流のコントロールは、バレット食道への進行を防ぐために極めて重要です。また、逆流を減らすための生活習慣改善や薬物療法(P-CABなど)は、バレット食道の管理と進行抑制にも有効とされています。
バレット食道(逆流性食道炎)の主な症状

バレット食道自体にはあまり症状はありませんが、併存する逆流性食道炎により、以下のような症状が見られることがあります。
- 胸やけ:胃酸が食道粘膜に触れることで、焼けるような痛みが胸部に感じられます。
- 呑酸:酸っぱい液体や苦い液体が喉に逆流する感覚があり、不快感を伴います。
- 喉の違和感:喉の奥がつかえたような感覚や不快感が継続します。
- 慢性的な咳:逆流した胃酸が気道を刺激し、咳が続くことがあります。
- 嗄声(声がれ):胃酸が声帯を刺激し、声がかすれる症状が現れることがあります。
- 嚥下困難:病状が進行すると、食べ物を飲み込むのが困難になることがあります。
- 胸痛:進行した場合、胸部に鋭い痛みを感じることがあり、心臓病との区別が難しい場合もあります。
これらの症状は特に食後や横になったときに悪化しやすい特徴があります。
バレット食道の診断
胃カメラ(上部内視鏡検査)

バレット食道の診断には胃カメラ(上部内視鏡検査)が最も有効であり、食道下部の粘膜が正常なピンク色の扁平上皮から赤みを帯びた円柱上皮に変性している部分を視覚的に確認します。この検査では病変の範囲を測定し、長いバレット食道と短いバレット食道に分類することで病態の重症度を評価します。
生検(組織検査)
内視鏡検査で確認した病変部位から組織を採取し、腸型化生や異型性の有無を顕微鏡で確認します。特に異型性が認められた場合は、腺がんのリスクが高まるため、さらなる精密検査や治療が必要です。
その他の検査
胃カメラでは胃と食道の接合部を詳細に観察し、食道裂孔ヘルニアの有無を確認することで診断精度が向上します。必要に応じて以下の検査が行われます。
(必要に応じて、高次医療機関にて下記の検査を行うことがあります。)
- 24時間pHモニタリング:逆流頻度とその程度を評価し、胃酸逆流の影響を測定します。
- 食道内圧測定:食道下部括約筋(LES)の弛緩や収縮機能の状態を評価し、逆流の原因を特定します。
診断基準
バレット食道の診断基準には、内視鏡検査で確認された円柱上皮の存在と、生検で腸型化生が確認されることが含まれます。これらの基準を満たすことで、バレット食道の確定診断が可能となります。
バレット食道の治療
バレット食道の治療には内視鏡治療をはじめ、光線力学療法(PDT)や外科的治療といった複数の選択肢があります。
具体的には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)は主に腺がんの前段階や早期がんに対して局所麻酔下で行われるため患者様への負担が少なく、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は病変が広範囲の場合に適応され、粘膜下層を剥離して完全切除を目指します。
また、光線力学療法(PDT)は光感受性物質を使用して異常組織を選択的に破壊する方法として有効であり、外科的治療としては抗逆流手術(Nissen法)を用いて食道下部括約筋を補強し逆流を防ぐ手術があり、内視鏡治療が困難な場合や逆流が顕著な場合に適応されます。腺がんが進行した場合には、食道を部分的または完全に切除する食道切除術が選択肢となります。
バレット食道と食道がん

バレット食道は食道がん、特に腺がんのリスクを高める病態であり、バレット食道患者の年間腺がん発生率は約0.5~1%とされています。このリスクはバレット食道の長さや腸型化生の有無に依存し、胃酸逆流の頻度と強度による粘膜の持続的な損傷や腸型化生の存在が腺がんへの進行因子となります。また、肥満による腹圧の上昇は胃酸逆流を悪化させ、腺がんリスクをさらに高める要因として指摘されています。
予防と生活習慣の改善

バレット食道の予防には、食事や生活習慣の見直しが重要です。食事内容やタイミングが胃酸逆流を左右するため、高脂肪食品やアルコール、辛い食べ物は控え、消化しやすい食品を中心に少量頻回食を心掛けることが推奨されます。また、食後2~3時間は横にならず、睡眠時には上半身を15~20度上げた姿勢で寝ることで逆流を防止できます。適度な運動としてウォーキングや軽い有酸素運動を取り入れるとともに、禁煙も胃酸逆流の抑制に役立ちます。
定期検診と早期発見の重要性

バレット食道の進行や腺がんリスクを抑えるためには、定期的な内視鏡検査が不可欠です。病変の進行度に応じて6か月から1年ごとの検査が推奨され、異型性や腺がんの早期発見につながります。
特にバレット食道と指摘されたことがある場合は、胃カメラ検査で年1回の定期検診を受けることが必要です。これに加え、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)による薬物療法で胃酸分泌をコントロールし、逆流を防ぐことが効果的です。
生活改善の具体的アドバイス
食生活の工夫に加え、睡眠環境の整備や禁煙などの生活習慣改善がバレット食道の予防と管理に重要な役割を果たします。これらの取り組みを日常に取り入れることで、胃酸逆流のリスクを減らし、バレット食道の症状進行や腺がんの発生を抑制することが期待できます。