• 2025年1月23日

機能性ディスペプシア(FD)

機能性ディスペプシアとは?

機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)は、胃や上腹部に慢性的な不快感や痛みがあるにもかかわらず、内視鏡検査や画像検査で明確な器質的疾患が見つからない場合に診断される病態です。この疾患は消化不良の一種として分類され、消化管の運動障害や過敏性が関与しているとされています。成人の10~20%に発症するとされており、日常生活に大きな影響を及ぼすことが特徴です。

ストレス要因

ストレスは機能性ディスペプシアの発症に大きく関与しており、交感神経が優位になることで胃腸の蠕動運動が抑制され、胃内容物が滞留します。また、ストレスホルモンであるコルチゾールが胃酸分泌を増加させることで、胃粘膜を傷つける原因にもなります。さらに、長期的なストレスは機能性ディスペプシアを慢性化させる要因となります。

機能性ディスペプシアに関連する疾患

機能性ディスペプシアに関連する疾患には以下のようなものがあります。

過敏性腸症候群(IBS)

  • 機能性ディスペプシアと同じく消化管の機能障害で、便秘や下痢を伴う場合が多い。
  • 両者が併発する割合は高く、鑑別が必要です。

胃食道逆流症(GERD)

  • 胃食道逆流症は機能性ディスペプシアと異なり、酸の逆流が粘膜を刺激し、胸焼けや咽頭痛を引き起こします。
  • 症状が類似するため、内視鏡検査での診断が重要です。

慢性胃炎

  • 機能性ディスペプシアでは慢性胃炎が伴うこともありますが、機能性ディスペプシア単独で炎症は確認されません。

機能性胃腸症との違い

機能性胃腸症は消化管全体に及ぶ広範な機能障害を指す一方、機能性ディスペプシアはその中でも胃や十二指腸に限定された症状、例えば胃もたれや胃痛などに焦点を当てた疾患です。

機能性ディスペプシアの症状

機能性ディスペプシアの症状には以下のようなものがあります。

胃痛や胃もたれ

  • 胃の粘膜過敏性:通常の食事や胃酸が刺激として認識される。
  • 胃酸の過剰分泌:胃壁が酸に対して過剰に反応し痛みを感じる。
  • 胃の運動低下(胃排出遅延):胃内容物が十二指腸にスムーズに移動せず、胃が膨張。
  • 胃の適応障害:食事量に応じて胃が適切に拡張できず、もたれ感を感じる。

膨満感や吐き気

  • 膨満感:ガスや液体が胃に過剰に溜まることで引き起こされる感覚。食後に多く現れ、特に炭酸飲料や脂肪分の多い食事で悪化します。
  • 吐き気:胃の蠕動運動(ぜんどう運動)の異常や胃酸分泌のアンバランスが原因で、空腹時や食後に感じることが多いです。

みぞおちの違和感

みぞおちの痛みや不快感は、胃の知覚過敏が関与しています。

  • 食後早期膨満感:食事量に関係なく不快感が出る。
  • 消化管運動の不調:胃腸の収縮リズムが乱れ、ガスや内容物が停滞。
  • 心理的ストレス:自律神経の影響で症状が増幅される。

飲食習慣と生活習慣

食習慣

  • 早食い:消化酵素や胃酸が十分に分泌されず、胃への負担増加します。
  • 高脂肪食品:胃の排出を遅延させ、膨満感や吐き気を引き起こす。

生活習慣

  • 夜遅い食事:胃が休む時間がなく、症状が悪化します。
  • 不規則な食事:胃腸のリズムが乱れ、消化機能が低下します。

ヘリコバクター・ピロリとの関連性

ヘリコバクター・ピロリ菌感染は、一部の機能性ディスペプシア患者において症状の発生に関与している可能性が指摘されています。

特にピロリ菌感染が確認された場合、除菌療法を行うことで症状が改善することが報告されていますが、この治療法がすべての機能性ディスペプシア患者に有効であるわけではありません。除菌による効果の有無には個人差があり、ピロリ菌の除菌後も症状が持続する患者がいる一方で、改善するケースも存在します。

このことから、ピロリ菌感染が機能性ディスペプシアの発症や持続に及ぼす影響は限定的であり、他の要因(胃腸の運動障害、過敏性、心理的ストレスなど)が症状に関与している可能性が高いと考えられています。

治療方針を決定する際には、ピロリ菌感染の有無だけでなく、患者個々の病態や症状を総合的に評価することが重要です。

機能性ディスペプシアの診断

胃カメラ(上部内視鏡検査)による診断

胃カメラ(上部内視鏡検査)の役割は、胃がんや胃潰瘍、逆流性食道炎などの器質的疾患を除外することです。粘膜に明確な病変が見られず、症状が6か月以上続く場合は、機能性ディスペプシア(FD)と診断されます。

詳しい診断手順

問診では、ストレス状況や食生活、症状が起こる時間帯などを確認します。内視鏡検査では、粘膜の状態を直接観察します。ピロリ菌検査で感染が確認された場合は、除菌療法を検討します。

検査結果の解釈

粘膜に異常が見られない場合は、機能性ディスペプシアと診断されます。異常が確認された場合は、胃潰瘍や胃がん、慢性胃炎などの他疾患が疑われます。

治療法と改善策

薬物療法の種類

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸分泌を抑え、胃痛を軽減。
  • 消化管運動促進薬:胃の排出を改善し、もたれ感を緩和。
  • 抗うつ薬:胃腸の過敏性を抑制し、ストレス軽減にも寄与。

食事療法

  • 少量頻回食:1回の食事量を減らし、胃への負担を軽減。
  • 脂肪分の少ない食品:消化しやすいものを選ぶ(蒸し野菜、白身魚)。
  • 刺激物を避ける:アルコール、コーヒー、唐辛子など。

生活習慣の見直し

  • ストレス軽減:瞑想、ヨガ、適度な運動。
  • 睡眠:毎日7時間以上の睡眠を確保。
  • 禁煙・節酒:胃腸への負担を軽減。

機能性ディスペプシアと食事

おすすめの食べ物

  • おかゆや白米:消化に良い。
  • ヨーグルト:腸内環境を整える。
  • 蒸し野菜(キャベツ、にんじん):胃酸を中和し、粘膜保護。

避けるべき食べ物

  • 高脂肪食品(揚げ物、バター)。
  • アルコールや炭酸飲料。
  • 刺激の強い調味料(唐辛子、こしょう)。

食事の取り方とタイミング

  • 食事は1日4~5回に分ける。
  • 食後2時間以内は横にならない。
  • 夜遅い食事を避ける。

●生活習慣の影響

運動と健康の関係

  • 軽度の有酸素運動は胃腸の動きを促進。
  • 激しい運動は胃腸の血流を減少させ、症状を悪化させることがある。

喫煙とアルコールの影響

  • 喫煙:胃酸分泌を増加させ、粘膜防御機能を低下させます。
  • アルコール:胃壁を刺激し、症状を悪化させる。

ストレス管理の方法

  • 瞑想や深呼吸によるリラクゼーション。
  • カウンセリングや心理療法を活用。
  • 趣味や友人との交流でリフレッシュ。

機能性ディスペプシアは明確な病変がないため、症状を管理することが治療の主軸です。薬物療法、食事療法、生活習慣の改善を組み合わせ、ストレス管理も加えることで、多くの患者が症状の改善を実感できます。

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