- 2025年1月23日
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の慢性疾患です。症状は個人によって異なり、軽度から重度まで幅広く、病状に応じた治療と生活管理が必要です。寛解と再燃を繰り返す特徴があり、患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。
潰瘍性大腸炎の原因

この病気の原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。まず、家族歴のある患者が多いことから、特定の遺伝子変異など遺伝的要因が疑われます。さらに、腸内細菌や自己組織に対する免疫反応が過剰に働くことで炎症が引き起こされる免疫系の異常や、高脂肪・低繊維の食生活、喫煙習慣、抗生物質の過剰使用といった環境因子も指摘されています。また、腸内細菌叢のバランスが崩れることが炎症を誘発する可能性もあり、こうしたさまざまな要因が重なり合って潰瘍性大腸炎を発症すると考えられています。
潰瘍性大腸炎の主な症状

潰瘍性大腸炎では、結腸や直腸の粘膜に炎症や潰瘍が生じ、症状は発症部位や重症度によって異なりますが、典型的には血便や粘血便が見られます。出血の程度は軽度から多量まで幅があり、1日に10回以上の水様性下痢が起こることも少なくありません。また、下腹部を中心とした腹痛が生じ、排便後に一時的に痛みが和らぐ場合があります。加えて、倦怠感や発熱、貧血、体重減少など全身症状を伴うことがあります。こうした症状は寛解期には軽減または消失する一方、再燃期になると再び悪化する特徴があります。
潰瘍性大腸炎の診断
潰瘍性大腸炎の診断には以下の検査が行われます。
大腸カメラ(下部内視鏡検査)

粘膜のびらん、潰瘍、偽膜などの特徴を観察します。病変の範囲を特定するため、大腸全体の検査が推奨されます。
血液検査

炎症反応(CRP、白血球数)や貧血、栄養状態(アルブミン値)を確認します。
便検査

感染症の有無や便中の血液・白血球を調べます。
画像診断

CTやMRIを用いて、腸管外の炎症や合併症を評価します。
血液検査と内視鏡検査

血液検査では、貧血や低アルブミン血症、炎症マーカーの上昇が確認されることがあります。内視鏡検査は診断におけるゴールドスタンダードで、粘膜の炎症範囲や重症度を直接観察します。
診断基準と重要な所見
内視鏡所見での粘膜のびらんや潰瘍が診断の決め手となります。組織生検で腺窩膿瘍や炎症細胞浸潤が確認されれば、潰瘍性大腸炎と診断されます。
潰瘍性大腸炎の治療
薬物療法には寛解導入療法と寛解維持療法があります。寛解導入療法ではステロイドや生物学的製剤を用いて炎症を抑え、寛解維持療法では5-ASA製剤(サラゾスルファピリジンやメサラジン)や免疫調整剤を使用して再燃を防ぎます。
具体的には、中等度以上の症例に使用されるステロイド(プレドニゾロン)は長期使用による副作用に注意が必要です。
抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブなど)をはじめとする生物学的製剤は重症例に対して高い効果を発揮します。また、治療の一環として、白血球除去療法や顆粒球除去療法などの血球成分除去療法がおこなわれることもあります。
一方、薬物療法が無効な重症例や中毒性巨大結腸症、大量出血などの合併症が発生した場合は手術が検討され、最も一般的な術式である大腸全摘術の後に人工肛門やJポーチ再建術が行われることがあります。
治療法の選択では、患者の年齢や症状の重症度、生活スタイルを考慮しつつ長期的な治療計画を立てる必要があり、患者と医師が連携しながら最適な方法を見極めていくことが重要です。
潰瘍性大腸炎の合併症
潰瘍性大腸炎の代表的な合併症には以下のようなものがあります。
- 中毒性巨大結腸症:腸が拡張し穿孔のリスクが高まる。
- 大腸がん:長期的な炎症ががん化のリスクを増加させます。
- 貧血:慢性的な出血による。
潰瘍性大腸炎と炎症性腸疾患(IBD)について

潰瘍性大腸炎とクローン病はいずれも炎症性腸疾患(IBD)に分類され、症状や治療法に共通点はあるものの、潰瘍性大腸炎が大腸に限定されるのに対し、クローン病は消化管全体に影響を及ぼす点に大きな違いがあります。
潰瘍性大腸炎と生活
食事の工夫と注意点
消化に良い食品を選び、刺激物を控えることが大切です。特に再燃期には低脂肪・低繊維の食事が推奨されます。一方、寛解期には栄養バランスを重視し、タンパク質やビタミンを十分に摂取します。
ストレス管理と症状の関係
ストレスは再燃の一因となるため、リラクゼーションやカウンセリングを通じてストレスを軽減することが重要です。
妊娠と潰瘍性大腸炎の関係性
寛解期に妊娠することが推奨されます。一部の薬剤は妊娠中でも使用可能ですが、事前に医師と相談する必要があります。
IBD患者の生活の質を向上させるには、症状管理だけでなく、患者会や支援団体との交流が有効であり、さらに専門家による栄養指導や心理的サポートも重要です。潰瘍性大腸炎は慢性的な疾患であるため、患者一人ひとりに合った治療計画と生活管理を医療チームと連携しながら続けることで、症状をコントロールし、生活の質を高めることが可能です。