- 2025年2月12日
クローン病
クローン病とは

クローン病は消化管全体に炎症を引き起こす慢性疾患で、特に小腸と大腸が影響を受けることが多い病気です。若年層での発症が多く、20~30代の患者が中心となっています。原因が完全には解明されていないため、治療は主に症状の管理と合併症の予防に焦点が当てられます。
クローン病は、炎症性腸疾患(IBD)の一種で、腸の内壁から外壁に至るまで炎症が進行する病気です。慢性的な腹痛や下痢を特徴とし、栄養不良や体重減少などの全身症状を伴う場合もあります。炎症が腸のどの部分にも生じる可能性がある点で、潰瘍性大腸炎とは異なります。
クローン病の原因
クローン病の正確な原因は不明ですが、遺伝的要因、免疫系の異常、環境因子の相互作用が関与していると考えられています。特に、特定の遺伝子変異(例:NOD2/CARD15)がクローン病のリスクを高めることが示されています。腸内細菌叢のバランスの乱れや、喫煙、高脂肪・低繊維の食生活も病気の発症に関与しています。免疫系が腸内の無害な細菌を攻撃し、慢性的な炎症を引き起こすことが主な発症メカニズムです。
クローン病と潰瘍性大腸炎の違い

クローン病と潰瘍性大腸炎は、どちらも炎症性腸疾患に分類されますが、その進行や病変の特性には大きな違いがあります。クローン病では消化管全体が影響を受ける可能性があり、炎症は断続的(スキップ病変)に分布します。また、炎症は腸壁の全層に及ぶため、瘻孔や膿瘍などの深刻な合併症を引き起こすことがあります。一方、潰瘍性大腸炎は主に大腸と直腸に限局し、炎症は粘膜層にとどまります。
クローン病の症状
クローン病の主な症状

クローン病では、慢性的な腹痛と下痢が最も一般的な症状です。これらの症状は、腸の炎症が原因で腸管の運動が乱れるために起こります。下痢は時に血便を伴うことがあり、貧血や脱水症状を引き起こす場合があります。また、発熱、疲労感、体重減少などの全身症状が見られることもあります。
腹痛や下痢の仕組み

腸管の炎症が進むと腸壁が肥厚し、腸内圧が高まることで腹痛が発生します。腸管が狭窄すると、食物やガスの通過が困難になり、痛みが悪化します。下痢は腸の吸収機能が低下し、水分が腸内に残るために起こります。急激な便意や排便後も続く不快感は、患者にとって生活の質を大きく低下させる要因です。
合併症とその他の影響
クローン病の合併症には、腸管狭窄、腸閉塞、瘻孔、膿瘍形成などが含まれます。これらは症状を悪化させるだけでなく、手術が必要になることも多いですあります。また、関節炎や結節性紅斑などの腸外合併症が見られることもあります。骨粗鬆症や栄養不良も、慢性的な炎症や栄養吸収の障害によって引き起こされる可能性があります。
クローン病の診断

クローン病の診断には、症状の評価に加え、血液検査、便検査、内視鏡検査、画像診断が用いられます。大腸カメラ(下部内視鏡検査)では、炎症や潰瘍、瘻孔などの病変を直接観察します。バリウム検査やMRIは、腸管全体の状態を評価し、狭窄や膿瘍の有無を確認するのに役立ちます。

血液検査では、炎症のマーカー(CRP、ESR)や栄養状態を評価します。低アルブミン血症や貧血が見られる場合、炎症や栄養不良が進行している可能性があります。画像診断では、腸管の深部の炎症や病変を詳細に評価し、内視鏡で確認できない部位の情報を補完します。
クローン病の治療
薬物療法
薬物療法は、炎症を抑え症状を軽減することを目的としています。抗炎症薬(メサラジン)は軽症例に使用され、ステロイドは急性期に炎症を強力に抑えるために使用されます。ただし、ステロイドの長期使用は副作用のリスクが高いため、免疫抑制剤(アザチオプリン)や生物学的製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ)を併用することが一般的です。
栄養療法と食事管理
栄養療法では、完全経腸栄養(EN)が行われることが多く、炎症の軽減と栄養状態の改善が期待されます。食事管理では、腸管に負担をかけない消化の良い食品を選びます。低脂肪、低残渣、低刺激の食品が推奨され、食物繊維や乳製品は症状に応じて調整されます。
手術の必要性
クローン病は薬物療法で完全に治癒することは難しく、合併症が重度の場合や薬物療法が無効な場合には手術が検討されます。手術には狭窄部位の切除や瘻孔の修復が含まれます。ただし、手術後も炎症が再発する可能性が高いため、術後の管理が重要です。
クローン病の日常生活と予防
患者の生活と職業の調整

クローン病は慢性的な疾患であるため、症状のコントロールが生活の質を左右します。食事制限や治療スケジュールに従う必要があり、社会生活や職業選択に影響を与えることがあります。在宅勤務や柔軟な働き方が患者にとって有効な選択肢となります。
心理的サポートとコミュニティの役割

慢性的な痛みや疲労感、病気の不安は、患者に精神的な負担をかけます。心理的サポートとして、カウンセリングや患者同士のコミュニティが重要な役割を果たします。特に、同じ病気を持つ人々との交流は、孤独感を軽減し、前向きな姿勢を持つ助けとなります。
クローン病の予防と注意点
環境要因とリスク管理

発症リスクを低下させるためには、禁煙が重要です。喫煙はクローン病の発症や再発リスクを高めることが明らかになっています。また、腸内環境を整えるために、発酵食品やプロバイオティクスの摂取が有効とされています。
日常生活での注意事項

ストレスを最小限に抑えることが症状管理に不可欠です。規則正しい生活習慣とバランスの良い食事、適度な運動を心がけることが、病気の進行を抑える鍵となります。
クローン病は治癒が難しい疾患ですが、適切な治療と生活管理によって症状を抑え、生活の質を向上させることが可能です。医療チームとの連携や患者支援ネットワークの活用により、前向きな生活を送るためのサポートが得られます。