- 2025年1月7日
胃がん
胃の構造と胃がんの発生部位
胃は食物を消化する役割を持ち、主に次のように分けられます。
- 胃体部:胃の中央部分で、胃酸や消化酵素を分泌する領域。
- 胃角部:胃がんの好発部位。胃体部と胃前庭部を区切る部分で腺細胞が豊富。
- 幽門部:胃の出口部分。腺がんが発生しやすい。
- 噴門部:胃の入り口部分で、近年、食道胃接合部がんの発生が増加している。
胃がんが発生する原因
胃がん発生には以下の要因が密接に関与します。
ピロリ菌感染 | 胃粘膜を損傷し、慢性胃炎から萎縮性胃炎、腸上皮化生を経て胃がんに進行する。除菌により胃がんリスクを大幅に低下させることが可能。 |
食事習慣 | 塩分の高い食品(漬物、燻製食品)は胃粘膜を刺激し、発がんリスクを高める。野菜や果物に含まれる抗酸化物質(ビタミンC、E)はリスクを軽減する。 |
生活習慣 | 喫煙は胃酸分泌を促進し、DNA損傷を引き起こす。過度な飲酒は胃粘膜を傷つけ、慢性炎症を引き起こす。 |
遺伝的要因 | 家族性胃がん症候群(CDH1遺伝子変異)やリンチ症候群は胃がんリスクを大幅に上昇させる。 |
胃がんの症状
胃がんの初期症状
初期症状には次のような軽い症状から始まることが多いです。
- 胃もたれ:食後に消化不良のような不快感。
- 軽度の貧血:慢性的な粘膜出血により鉄欠乏性貧血が発生する。
- 体重減少:特に食事量が変わらないにもかかわらず減少する場合は要注意。
自覚症状と見逃されやすい兆候
自覚症状や胃がんを見逃しやすい症状には以下のようなものがあります。
- げっぷや胸焼け:逆流性食道炎と誤診されやすい。
- 吐き気や軽い嘔吐:胃の出口(幽門)が狭くなると発生。
- 倦怠感:進行した場合の全身症状の一つ。
進行がんの特徴
進行がんでは主に以下のような症状があります。
- 強い腹痛:腫瘍が胃壁を侵食し、神経を刺激。
- 吐血や黒い便:腫瘍からの出血による。
- 黄疸や腹水:肝転移や腹膜播種の兆候。
胃がんの検査と診断
胃がんの検診と早期発見の重要性
日本では胃がんは死亡原因の上位を占めており早期発見が鍵になります。
1.検診の推奨年齢
40歳以上は年1回の検診を推奨します。
2.バリウム検査
粘膜の異常(隆起、凹み)を検出します。コストが低く広範囲のスクリーニングに適している。
3.胃カメラ
胃がんの早期診断に最も効果的です。直接観察により病変の詳細を評価可能です。
胃カメラとバリウム検査
胃カメラ(上部内視鏡検査)
- 粘膜の形態変化のみならず色調変化も観察することが可能。
- 初期病変の観察や生検(組織採取)が可能です。
- 胃炎やポリープ、早期がんを的確に診断できます。
バリウム(X線検査)
- 消化管全体を広範囲に評価できるが、精度は内視鏡より低い。
- 粘膜下を広がるような一部のがん(スキルスがん)については、内視鏡よりも有効な場合もある。
精密検査の流れと診断手法
- 生検:内視鏡検査中に採取した組織を病理検査し、がんの種類を確定します。
- 腫瘍マーカー:血液検査でCEAやCA19-9を測定。進行がんの補助診断に有用です。
- 画像検査:CTやMRIでリンパ節転移や遠隔転移を評価します。
胃がんのステージと進行度分類
胃がんのステージごとの特徴と範囲
ステージ0(早期がん) | 粘膜内に限局し、リンパ節転移なし。内視鏡治療が適応。 |
ステージI-II | 粘膜下層や筋層への浸潤あり。外科的切除が必要です。 |
ステージIII | 胃壁全層に浸潤し、多発性リンパ節転移を伴う。 術後化学療法が併用される。 |
ステージIV | 他臓器への遠隔転移(肝臓、腹膜、肺など)。化学療法が主軸。 |
進行がんと早期胃がんの違い
- 早期胃がん:粘膜下層までの浸潤に限り、転移が少ない。治癒率90%以上。
- 進行がん:胃壁全層を侵し、遠隔転移が認められる。治療が複雑化。
胃がんの治療
胃がんの治療には、手術療法と化学療法および分子標的治療があります。手術療法には、粘膜内の早期がんを完全に切除する内視鏡的治療(ESD)、術後の回復が早い低侵襲の腹腔鏡下手術、そして進行がんに対してリンパ節郭清を含む広範囲切除を行う開腹手術があります。化学療法では、術後補助療法や転移がんに対して抗がん剤(主にプラチナ製剤)が用いられ、分子標的治療では、HER2陽性の胃がんに対してトラスツズマブが使用されます。
手術後の生活とリハビリ
- 栄養管理:小分けした食事と高タンパク質の摂取。
- 合併症対策:ダンピング症候群(食後の不快感)の予防。
- 塩分控えめの食事:高塩分食品は避ける。
- ピロリ菌除菌:未治療の場合は速やかに除菌が必要。
胃がんの予防と早期発見のポイント
胃がん予防に有効な生活習慣
- バランスの良い食事(果物や野菜を多く摂取)。
- 塩分の多い食事を避ける。
- 禁煙・節酒。
- ピロリ菌感染の早期診断と除菌。
検診を受けるべきタイミングと項目
神戸市の場合
- 40歳以上:年1回の胃X線検診(バリウム)。
- 50歳以上:年1回の胃X線検診または2年に1回の胃内視鏡検診。
・高リスク群:ピロリ菌感染者や除菌後、家族歴のある人は特に注意。院長としては、内視鏡切除が可能な早期がんの状態で発見をするために、2年に1回または毎年の胃カメラ(上部内視鏡検査)でのチェックをお勧めします。3年以上間隔があいてしまうと、発見できても進行がんになってしまっている場合があります。
・低リスク群:ピロリ菌未感染者で非喫煙者、飲酒量もさほど多くない人。いろいろな先生によって毎年~5年ごとと、推奨する検診間隔が異なります。胃がん検診の対象にならないという先生もいます。院長としては、定期的な検査は5年ごとで十分と考えますが、その代わりに何か気になる症状があれば早めに受診されることをお勧めしています。
食べ物が胃がんリスクに与える影響
- リスクを高める食品:高塩分食品、加工肉、燻製食品。
- リスクを軽減する食品:ビタミンC、Eが豊富な果物や野菜、緑茶。