• 2025年1月7日

ピロリ菌感染

ピロリ菌とは

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ:Helicobacter pylori)は、胃内に生息するらせん状のグラム陰性細菌で、1982年にオーストラリアのマーシャル博士とウォレン博士によって発見されました。酸性環境に強く、ウレアーゼという酵素を分泌して胃酸を中和し、自身の生存環境を作り出します。

ピロリ菌の生息場所

胃粘膜の表面や粘液層に存在し、酸性の胃環境でも保護されています。胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎の患者でも確認されることがあります。

ピロリ菌の感染源

ピロリ菌は、主に水系感染、食品感染、家庭内感染を介して伝播します。水系感染は未処理の飲料水を介して発生し、発展途上国で多く見られます。食品感染は、十分に洗浄されていない生野菜や果物が原因となることがあり、家庭内感染では幼少期(ほとんどが小学校入学以前)に家族間で唾液や食器の共有を通じて感染が広がることが一般的です。
また、経口感染では感染者の唾液や吐物、汚染された食器から菌が胃に到達し、糞口感染では便を介して菌が環境中に放出され、水や食品を通じて再感染することがあります。
感染したピロリ菌は、胃酸を中和するためにウレアーゼを分泌し、アンモニアを生成することで胃粘膜を侵食し、慢性的な炎症を引き起こします。

ピロリ菌感染と病気の関係

ピロリ菌と胃がんのリスク

ピロリ菌は、世界保健機関(WHO)により「確実な発がん因子」として分類されています。以下のプロセスを経て胃がんのリスクを高めます。

  • 慢性胃炎・萎縮性胃炎: ピロリ菌感染は慢性胃炎を引き起こし、胃粘膜の防御機能を弱めます。炎症が進行すると萎縮性胃炎に至ります。
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍:ピロリ菌が粘膜を刺激し、胃酸が直接粘膜にダメージを与える。再発率が高く、ピロリ菌除菌後に劇的に改善することが多い。
  • 腸上皮化生:粘膜が腸組織に類似した細胞に置き換わる。
  • がん化:遺伝子異常が蓄積し、腺がんへと進展。

除菌効果

ピロリ菌の除菌は胃がんリスクを約半分に低下させるとされています。特に早期除菌が有効と考えられています。

ピロリ菌感染のセルフチェック

ピロリ菌感染はしばしば無症状で進行しますが、以下の症状が見られる場合、感染が疑われます。

□胃もたれ、胃の不快感
□消化不良やげっぷの増加
□軽い吐き気
□貧血(鉄欠乏性貧血が顕著)

※注意点
無症状の場合でも、慢性胃炎や胃がんのリスクが高まるため、感染有無の確認が重要です。

ピロリ菌の検査方法

内視鏡検査によるピロリ菌の発見

  • 内視鏡観察:胃炎の京都分類というものが示されており、胃粘膜の紅斑、びらん、点状の変化など感染を示唆する所見が公表されています。院長も、胃炎の京都分類をもとに、胃内のピロリ菌感染を推測しています。
  • 生検(組織採取):迅速ウレアーゼ試験でピロリ菌の存在を確認。必要に応じて培養検査やPCRで精密診断。ピロリ菌の存在診断としては有効だが、ピロリ菌未感染の証明としては有効性に欠ける部分がある。

呼気検査と血液検査の有効性

呼気検査

尿素を摂取後、呼気中の二酸化炭素濃度を測定する非侵襲的検査。存在診断にも使用するが、特に治療効果の確認に有効。

血液検査

抗体を測定するが、感染既往者では陽性になることがあるため、治療効果の確認には限界がある。

ピロリ菌の除菌方法

ピロリ菌の除菌は、適切な抗菌療法を組み合わせることで高い成功率を誇りますが、耐性菌や副作用への対応が重要です。以下に詳細を説明します。

一次除菌療法

一次除菌療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と2種類の抗生物質(クラリスロマイシンとアモキシシリン)を組み合わせて使用します。この治療は胃酸の分泌を抑制し、抗生物質の効果を高める仕組みです。通常、7日間の治療が行われ、治療成功率は約90%とされています。

二次除菌療法

クラリスロマイシンに耐性を持つ菌が確認された場合、二次除菌療法としてメトロニダゾールを含む抗菌薬を用いた治療が実施されます。二次治療の成功率は95%以上と高いですが、治療成績を左右する要因として耐性菌の存在が挙げられます。

副作用と成功率

除菌治療中に報告される副作用には、下痢、味覚異常、腹部不快感などがあります。これらの副作用は比較的軽微で治療継続が可能な場合がほとんどです。強い下痢、腹痛、下血や粘血便を伴う下痢が発生した場合には、治療を中止する必要があります。また、治療中盤を含めて、薬疹が出ることがあります。耐性菌の増加が除菌成功率を下げる課題となっており、特にクラリスロマイシン耐性が一次除菌治療失敗の主要因とされています。

除菌後の確認と再感染のリスク

除菌治療が終了した後、治療効果を確認するために1~2か月後に呼気検査や便中抗原検査が実施されます。これにより、除菌が成功したかを確認します。除菌後の再感染率は非常に低く、1%未満とされています。慢性感染の多くは幼少期に起こるため、成人になってから新たに感染するリスクは稀とされています。

日常生活におけるピロリ菌対策

日常におけるピロリ菌の感染対策

日常生活におけるピロリ菌の感染対策には以下のようなものがあります。

  • 早期検査と感染者の除菌治療を行う。
    (感染者が、自分の子供や孫を感染させてしまう可能性があります。)
    (除菌治療成功後は、他人を感染させるリスクはなくなります。)
  • 定期的な胃がん検診の実施。
  • 安全な飲料水の使用を心がける。
  • 手洗いを徹底する。

食生活と消化の習慣

  • 推奨される食品:ヨーグルト、キャベツ(抗菌作用が期待される)。
  • 控えるべき食品:高塩分食品、アルコール、刺激物。

ピロリ菌感染は胃炎、潰瘍、胃がんのリスクを高めるため、早期発見と適切な除菌療法が重要です。また、生活習慣の見直しと衛生管理が予防の鍵となります。

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